山口県の岩国市周東町という小さな町から産まれた銘酒「獺祭(だっさい)」。
日本酒愛好家のみならず、日本酒に興味がない方においても、また世界的に抜群の知名度を誇っています。
今回は、醸造元の「旭酒造」にスポットを当ててみました。
歴史
元々は江戸時代から200年続く酒蔵。一時期は日本酒の売り上げが落ち込む一方、旭酒造の業績も非常に低迷していました。
そんな中、蔵をついだ桜井博志氏は、「酔うため、売るための酒から味わうための酒造り」へ模索し、50%以上精米した純米大吟醸のみを醸す方針としました。
創業からの普通酒「旭富士」という看板を捨て、そうして産まれたのがこの「獺祭」。
それまでの常識にとらわれずに、東京で勝負するための酒として醸され、売り上げも軌道に乗り始めたところで、大きな転機が。
旭酒造は、地ビール参入、飲食業で大きな経営損失を被ります。
「酒造りにもう来たくない」
経営危機を聞いた杜氏たちは蔵から姿を消しました。
しかし桜井社長は、数日後には「自分たちで酒を造ろう。」と決意。ここで方針の大きな転換を図り、獺祭の特徴でもある杜氏制度ではない酒造りが始まります。
「杜氏は経営者の私が思っている酒を造ってくれない。冬の間にガッと造って、造ったからこれを売ってくれと言って春には帰っていく。今年の米の性状ではこの造り方では困る、酒が変だと思っても、気が付いたらできちゃっているんです。品質が非常に問題だった。自分たちで造ったほうがいいと思った」
生産体制
社員中心で酒造りを始めたことで、一年中日本酒を造れる四季醸造の設備を整えました。雇用の安定化、顧客へのリアルタイムなフィードバック、生産の安定という、旭酒造の強力な販売基盤が出来上がりました。
そして何より特筆すべき「全量純米大吟醸」。
この特定名称酒を造るために全ての製造体制を集約し、獺祭のレベルを極限まで高めているのです。
さらに、「全量無濾過」。
「炭素濾過そのものが悪いということではないが、炭素濾過をしなければならない酒を造ることそのものが失敗」と語るこだわりには驚きます。
これだけ有名になるとどこからか聞こえてくる「獺祭って完全機械化だから邪道だよね」という声。
これは完全に偏見です。
綿密な温度管理、遠心分離機をはじめとした最新の醸造設備は備わっていながらも、やはり人の五感の重要性を熟知したスタッフによって造られています。
酒名の由来
酒蔵が位置する「獺越(おそごえ)」という地名から名付けられた「獺祭」。
「獺」=「カワウソ」は捕獲した魚を河原に並べる習性があります。それが供物や祭りをしているように見えることから、詩や文をつくる際、多くの参考資料等を広げ並べる様子を「獺祭」と呼びます。
また、明治文学に革命を起こした、正岡子規の別号のひとつが「獺祭書屋主人」といいました。
「酒造りは夢創り、拓こう日本酒新時代」をキャッチフレーズに伝統とか手造りという言葉に安住することなく、変革と革新の中からより優れた酒を創り出そうとする。
酒名に「獺祭」と命名した由来はそんな想いからだそうです。
獺祭の印象
とにかく優等生、とにかく柔らかく、香りが広がる。
いろいろ試飲してしばらくしてから飲むと、その凄さに言葉を失います。
限定酒でもなく、量産体制の取れた「ベーシックグレード」が極めてハイレベル、という感じです。
精米歩合に応じて冠されている「二割三分」「三割九分」などの名称でクラスが非常にわかりやすく、そして選びやすい。
それぞれの瓶ラベルを見てみると、和紙だったり「磨き」が付いていたりと微妙な違いもまた楽しい。
特筆すべきは「獺祭45」。以前販売されていた「獺祭50」の後継銘柄です。
燗をつけても落ち着いた香りと米の味わいが膨らみ、飲むステージを選びません。
また、女性や若年層に特に人気が高い「獺祭スパーリング」。
後から炭酸を封入しているわけではなく、酒本来の発酵パワーがそのまま炭酸になっている…
酒が生きていることを実感できる一本です。
飲みきりの360mlは、4合では多い・・・という方にピッタリ。
「獺祭 純米大吟醸」と一口で言っても、豊富なラインアップが非常にうれしい銘柄ですね!
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